『循環器疾患』とは、⾎液を全⾝に循環させる臓器である⼼臓および動脈や静脈に異常をきたす疾患のことで、⼼不全・虚血性⼼疾患(⼼筋梗塞や狭心症)・心臓弁膜症・心筋症・不整脈などの心臓疾患および動脈疾患(閉塞性動脈硬化症・動脈瘤など)や静脈疾患(深部静脈血栓症・静脈瘤・慢性静脈不全など)に分類されます。⼼臓疾患は⽇本における死因の第 2 位であり、健診などで指摘された場合は精査が勧められます。

1、心不全(急性心不全 慢性心不全)

『心不全』とは、何らかの原因によって引き起こされ、心臓の機能低下から起きる全身のさまざまな不調状態であり、具体的には心臓のポンプ機能が徐々に低下し、全身に十分な血液を送り出せなくなっている心臓機能不全状態です。典型的な症状としては労作時の動悸や息切れ・起坐呼吸(夜間息苦しさで上体が起きてしまう)・足の浮腫・全身倦怠感などがあり、原因としては心筋梗塞心筋弁膜症、心筋症、不整脈など心臓疾患だけでなく全身状態(高血圧貧血、肺炎など)の悪化などのこともあります。

『心不全』は病態的に大きく2つに分けられます。まず一つは短時間で急激な呼吸困難になり重症の場合はそのまま死に至ることもある急性心不全と、もう一つは慢性的に息切れやむくみがあり内服薬などの治療の継続が必要な慢性心不全とがあります。治療法は薬物療法を基本とし、病態に応じて在宅酸素療法・心臓リハビリテーション・心臓再同期療法(ペースメーカー等を用いる)などを導入することがあります。

2、虚血性心疾患:心筋梗塞/狭心症 

虚血性心疾患』とは、心臓を栄養する冠動脈動脈硬化などにより狭窄あるいは閉塞することで冠動脈血流が不足して、発症する心疾患のことで、主に『心筋梗塞』と『狭心症』を指します。

『心筋梗塞』とは心臓を栄養する血管である冠動脈の動脈硬化が進み、冠動脈内の動脈硬化部分が血栓により血流が途絶し心筋が壊死してしまう疾患です。激しい胸痛を認め、時に死に至ることもあります。

『狭心症』は主に冠動脈が動脈硬化で狭窄している病態(これを心筋虚血といいます)ですが、冠動脈がけいれんを起こし狭窄を来す特殊な病態(これを狭心症といいます)もあり、両者ともに典型的な症状は胸痛です。

虚血性心疾患が疑われた場合は心臓カテーテルによる冠動脈造影検査にて診断します。ただし緊急性が高い場合はそのまま引き続き内科的な冠動脈インターベンション(冠動脈をバルーンで拡張させたり、ステントを挿入し開存させます)や外科的な冠動脈バイパス術などの血行再建術を行いますが、病態的に待てる場合は後日に血行再建術を行います。

虚血性心疾患である『心筋梗塞』も『狭心症』も原因は冠動脈の動脈硬化であり、その予防は動脈硬化の進行予防とイコールです。つまり動脈硬化の危険因子である脂質異常症、高血圧、糖尿病、メタボリックシンドロームなどをしっかりと治療すること、また禁煙が重要です。

3、心臓弁膜症 

心臓には左右の心房と心室の4つの部屋があります。各部屋の間には血液の逆流を防ぐための弁があり、それらは開いたり閉じたりして一方向へ血液を送り出し、逆流を防止しています。心臓の弁は僧帽弁(左心房と左心室の間に存在)・大動脈弁(左心室と大動脈の間に存在)・三尖弁(右心房と右心室間に存在)・肺動脈弁(右心室と肺動脈の間に存在)の4つです。『心臓弁膜症』とは、これらの弁のはたらきが悪くなった状態で、弁が開きにくいことで血液が流れにくくなる狭窄症と、閉じ切らないことで血液が逆流する閉鎖不全症があります。弁膜症は軽症から重症まであり、病態が進むにつれて全身倦怠感・労作時の呼吸苦・下肢のむくみなどの心不全症状を認めます。治療は病態や年齢に合わせて薬物療法を基本とし、必要に応じて内科的カテーテル治療や外科的弁置換手術などを行います。

4、不整脈 

心臓は適切な頻度と規則正しいリズムで拍動を行っています。不整脈とは、心拍動の頻度異常や不規則なリズムの状態を指します。ヒトの安静時の心拍数は通常1分間に50〜100拍程度ですが、これを下回る場合を徐脈、上回る場合を頻脈と呼びます。不整脈は心拍数からは徐脈性不整脈と頻脈性不整脈に分けられ、また心拍数異常を伴わずに不規則となる期外収縮というものもあります。治療方針は各不整脈により様々であり、治療の介入が全く不要のものから、直ちに治さないと致命的となってしまうものまであります。治療方針は心電図検査を主体として24時間装着型心電図検査(ホルター心電図検査)や携帯型心電計による不整脈の鑑別および心臓超音波検査等による心機能の評価をもとに決定します。治療法は抗不整脈薬による薬物療法・経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)・恒久的ペースメーカー・植え込み型除細動器などがあります。

ⅰ)頻脈性不整脈:心房細動 心房粗動 心室頻拍 心室細動など 

<心電図1>心房細動

基線はさざ波様で心拍動は全くバラバラであり一定ではありません。のちに根治目的に経皮的カテーテル心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)施行となりました。 

ⅱ)徐脈性不整脈:洞不全症候群 房室ブロック(1度・2度・3度)など 

<心電図2>3度房室ブロック(完全房室ブロック)通常、心房と心室の収縮は1対1でつながるはずですが、本例では心房収縮と心室収縮は電気的につながらずバラバラです。のちに恒久的ペースメーカー植え込み術施行となりました。

ⅲ)期外収縮:心室期外収縮 上室(心房)期外収縮 

<心電図3>心室期外収縮

心室期外収縮は頻発しており抗不整脈の内服開始となりました。 (●正常心拍と★心室期外収縮の3連発と2連発)

5、心筋症 

『心筋症』とは、心機能障害を伴う心筋疾患です。『心筋症』は著明な心室内腔の拡大を特徴とする拡張型心筋症や著明な心筋肥大を特徴とする肥大型心筋症が多くを占めますが、その他虚血性心疾患を基礎とする虚血性心筋症、頻脈性不整脈が原因の頻脈起因性心筋症、過剰なアルコール習慣が原因のアルコール性心筋症などの二次性心筋症もあります。『心筋症』はそれがもたらす心不全状態により治療方針が異なってきます。薬物療法を基本として、必要に応じて外科的治療(心移植・補助人工心臓・左室形成術など)や突然死予防のための植え込み型除細動器などの適応を判断致します。

6、閉塞性動脈硬化症

『閉塞性動脈硬化症』とは四肢(主に下肢)の動脈硬化や炎症により動脈が狭窄や閉塞する疾患で、末梢動脈疾患とも呼ばれます。重症化すると四肢が潰瘍・壊死に至り切断することもあるため重症度を評価する必要があります。。特に50歳以上の男性に多く、高血圧糖尿病・脂質異常症・喫煙などが主な原因です。下肢ならば(下肢の痛みのため休み休みでしか歩けなくなる)が代表的な症状であり、そのほか四肢冷感・しびれなどがあります。脈波検査のABI(Ankle-Brachial-Index)により診断しますが、最終的な診断は血管造影検査にて評価します。抹消動脈の高度狭窄や閉塞を認めた場合は治療として、抗血小板剤などの内服を基本とし血管内治療(バルーン拡張やステント留置)や外科的血管バイパス術などを検討します。

7、深部静脈血栓症

『深部静脈血栓症』とは、特に下肢の深部を走行する深部静脈の中で血液が固まって血栓ができ、静脈の内腔を塞いでしまう疾患です。血栓ができる要因には、長期臥床などによる血流速度の低下や停滞、手術や外傷などによる血管壁の損傷、脱水などによる血液凝固能の亢進があります。

静脈内血栓により多くは片側のふくらはぎにむくみや発赤などの症状が起き、血栓性静脈炎を併発すると痛みや熱感を生じます。血栓の状態は、血液検査としてDダイマーの測定、静脈エコー・造影CT検査等の画像検査により評価します。時に血栓が血流にのって右心房・右心室を経由して肺動脈まで運ばれて肺動脈を閉塞してしまう肺血栓塞栓症を引き起こす危険性があるため、診断されたら早急な治療が必要です。第一に抗凝固療法を行いますが、肺血栓塞栓症のリスクの高い例や抗凝固療法ができない例などは、下大静脈フィルター(血栓をとらえる静脈内の網)を留置します。

8、慢性静脈不全

『慢性静脈不全』とは、足の静脈の機能が悪くなり、血流が悪化して主にのむくみを認め、進行すると痒みや痛みなどの症状が生じる病気です。主な原因は高齢に伴う筋力低下や座位・立位などの姿勢保持ですが、下肢静脈瘤・深部静脈血栓症・リンパ浮腫などが原因の場合もあるため、鑑別が必要となります。病態が進行すると皮膚症状が目立ってきて放置しても致命傷にはなりませんが、下肢血液のうっ滞が皮膚の炎症を起こし皮膚の赤み・かゆみ・色素沈着から、時には潰瘍(皮膚が深いところまで傷ついた状態)や蜂窩織炎(細菌が潰瘍などの傷口から侵入して発症する感染症)を引き起こすことがあるため注意が必要です。改善には①長時間の立ちっぱなしや座りっぱなしを避ける②ウォーキングや体操を取り入れるなどの就活習慣の見直しをしながら、弾性ストッキング着用により改善する例が多いです。当院では数種類の弾性ストッキングを用意しておりますので、足のむくみが気になりましたらお気軽にご相談ください。