消化器疾患とは消化管(食道、胃、十二指腸、小腸、大腸)および消化管外部の臓器(肝臓、胆のう、膵臓など)に関係する疾患のことで、炎症・腫瘍・感染症など多くの種類があります。これらの臓器に不具合が生じると、なんらかの症状がお腹に起こります。症状としては腹痛をはじめ胸やけ・嚥下困難・嘔気/嘔吐・おなかの張り・食欲不振・下痢・便秘・下血など多岐にわたります。検査では血液検査・腹部レントゲン・腹部超音波などを行い必要に応じて腹部CTや内視鏡検査を行います。治療方法も疾患
部位・原因・症状により様々であり、まずはきちんと診断されることが大切です。



1、胃炎

『胃炎』とは、胃粘膜の炎症性疾患の総称であり、急性胃炎と慢性胃炎に分けられます。典型的な症状は心窩部(みぞおち)や上腹部の痛みですが、ほかに悪心・嘔吐・食欲不振、胸やけなどを呈します。治療は胃酸分泌抑制薬・胃粘膜保護薬・胃運動機能改善薬などを組み合わせて用います。

急性胃炎とは何らかの誘因によって急性発症する胃粘膜の炎症性疾患です。臨床的には腹痛・嘔吐・消化管出血などの突発症状を呈し、暴飲暴食、喫煙、薬物(非ステロイド性抗炎症剤等)、ストレスなどが原因としてあげられます。

また一般に『胃炎』というと慢性胃炎のことを示します。慢性胃炎は、胃生検により病理組織学的に診断された場合に用いられ、原因としてヘリコバクター・ピロリ菌感染があります。一方、原因となる器質的病変部がないにも関わらず、慢性的に胃もたれや心窩部痛など腹部症状を呈する症状のみの『胃炎』を機能性ディスペプシアとよび、QOL(生活の質)が低下してしまうこともあります。治療は消化器系薬剤のほか抗不安薬・麻酔薬・漢方薬なども用いて症状に合わせた薬物療法を行います。

診断には上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)が必要な場合がありますが、当院では内視鏡検査を施行しておりませんので、必要に応じて専門病院へ紹介させていただきます。

2、逆流性食道炎

『逆流性食道炎』とは胃の内容物が食道に逆流することで食道に炎症を起こす病気です。食道と胃のつなぎ目には「下部食道括約筋」という筋肉があり、胃の内容物を食道に逆流させない働きをします。ただし、加齢・過食・肥満などの原因で「下部食道括約筋」がゆるむと酸性の胃内容物が逆流し、食道に炎症を起こします。典型的な症状は胸やけ・呑酸(すっぱいものが口の中へ上がり広がる)・胃もたれです。診断には上部内視鏡検査が必須で、食道の粘膜障害を認めます。治療は生活習慣の改善(アルコールや高脂肪食の制限など)を基礎に、胃酸分泌抑制薬であるプロトンポンプ阻害薬やH2受容体拮抗薬などの薬物治療を行います。

3、脂肪肝(アルコール性・非アルコール性)

『脂肪肝』とは、肝細胞内に中性脂肪が蓄積した状態で、肝細胞の30%以上に脂肪空胞を認めます。つまり何らかの理由によって脂肪代謝の処理が追いつかない状況に陥ったため、肝細胞の中に脂肪が油滴のように溜まって、肝細胞が膨れている状態をさします。『脂肪肝』自体には自覚症状は特になく、アルコール性と非アルコール性に分けられます。アルコール性脂肪肝は、禁酒により改善しますが過量な飲酒を続けることで肝炎や肝線維症さらには肝硬変へと進行することが報告されています。非アルコール性/単純性脂肪肝は多くは肥満に伴うものであるため、食事療法や運動療法といった生活習慣の改善が治療の中心となりますが非アルコール性脂肪肝炎に移行する例もあるので定期的な腹部超音波検査などでfollow-upが必要です。

4、胆石

『胆石』とは、肝臓から分泌される胆汁の成分が固まって胆のう内・胆管内に溜まって生成した結石です。胆石生成の要因は胆嚢収縮機能の低下、脂質異常症(特に高トリグリセリド血症)、急激な体重減少、食生活習慣などが関係しています。

『胆石』が存在するだけでは無症状の場合が多く積極的な治療は行いません。しかし食後に胆のうが収縮し『胆石』が胆のう頸部や胆のう管にする(はまり込んでつまる)ことで生じる胆石発作では右上腹部の激痛・悪心・嘔吐を認めるため発作時には鎮痛剤を投与し、安定化したらウルソデオキシコール酸を主成分とする経口胆石溶解剤を内服することで、胆汁の流れをよくし胆石を溶かす効果を期待します。繰り返したり胆嚢炎を併発した場合は初期治療として抗菌剤の投与を行い、続いて胆道ドレナージや胆嚢摘出術を行うことがあります。

また『胆石』が胆嚢癌を生じやすいという明確な根拠はありませんが、胆嚢癌では高率に胆石が認められることから、定期的な腹部超音波検査などが勧められています。

5、便秘症

『便秘症』とは、「本来体外に排出すべき糞便を十分量かつ快適に排出できない状態で、排便回数が1週間に3回未満」と定義され、排便回数や便量の減少・排便困難・便の硬化のことを指します。
『便秘症』はその発生機序から、機能性便秘(消化管には病変がなく、働きの異常が原因)と器質性便秘(消化管そのものの病変が原因)に分けられます。機能性便秘には弛緩性便秘(加齢・筋力低下・栄養不足などが原因で大腸の運動や緊張が低下することで便の通過が遅延し、水分が吸収されることで硬便となる)・過敏性腸症候群(ストレスや環境の変化などによる便秘や下痢)・薬剤性便秘(他疾患治療薬の副作用による便秘)・痙攣性便秘(副交感神経の過緊張により、腸管が痙攣性に収縮し、便の移送が妨げられることで生じる便秘)などがあります。器質性便秘とは腸の通過障害(腫瘍、癒着、炎症、潰瘍など)もしくは腸管以外の器質的疾患により、物理的に通過障害が起こった場合に起こる便秘のことをいいます。
診断は最初に侵襲の少ない腹部単純レントゲン撮影を行うことで大腸の状態を迅速かつ客観的に判断し、また腸閉塞を来たしていないことを確認することも重要です。
治療は常温の水分や線維性食物の摂取を心掛け、便を柔軟化する薬剤・腸の蠕動運動を亢進させる薬剤・大腸刺激剤などを使用しますが、腸内細菌叢を正常化させるため便秘薬と整腸剤が併用されることもあります。